第一話
【人物紹介】
ワタル＝高校一年生。物心つく前に両親を失っている。
タケシ＝ワタルの友達。明るくて調子に乗りやすい。
【放課後の校舎裏、タケシが女の子と会話している。それを少し離れて見守るワタル】
タケシ：あ、あの！ い、いい天気……ですね
女の子：……はい、そうですね
タケシ：あ、あの！
女の子：はい？
タケシ：こ、この間の手紙、よ、読んでくれた？
女の子：はい、読みましたけど
タケシ：えっ？ あ、あの…… い、いや、いいんです！ じ、じゃあ、また……
女の子：私、お付き合いしている人いるし
タケシ：えっ！？ そ、そう、なんですか？ え、えっと、あの……
女の子：もういいかな？
タケシ：えっ？ う、うん……
【女の子去る。タケシ立ち尽くす。離れて見ていたワタル、タケシに歩み寄る】
ワタル：……タ、タケシ？
タケシ：ワ、ワタル……彼氏いるって
ワタル：そう……それじゃあ仕方ないよね
タケシ：……すまん
ワタル：……なんでタケシが謝るの？
タケシ：い、いやあ、ワタルにはいろいろ応援してもらったのになあと思って！
しかし彼氏がいたとは誤算だったぜ！ ふーつ！ まさか彼氏がいるなんてな！ 予想外の展開だぜ！
ワタル：タケシ……
タケシ：まさかのだいごさーん！ だーい、どーん、でーん、がえーしっ！ と来やがったあ！
ワタル：……女の子はあの娘だけじゃないよ
タケシ：……そうだな
ワタル：そうさ。タケシならもっと素敵な娘がきっと現れると思うよ。
タケシ：……まーな。 ……しかしワタルよ
ワタル：ん？
タケシ：お前、俺を慰めようなんざ、……
タケシ・ワタル：“十年早いんだよっつ！”
ワタル：そうだね！自称百戦錬磨の男だもんね！
タケシ：自称は余計だっ！
ワタル：ゲーセンいこっか？
タケシ：いーねーっ！
ワタル：決まりだね！
タケシ：しかし、ワタルは好きな子とかいないんだよな……もてるのに
ワタル：そんなことないよ。でもあんまりそういう感情ってよくわからないし、僕にはきっと……まだ、早いんだよ
タケシ：もったいない！ “人生の喜びは早く味わうに越したことはない“というのに
ワタル：誰の言葉？
タケシ：俺の
ワタル：あ、そう……
【ゲームセンター 騒々しい音がきこえる ワタルが格闘ゲームをしており、すぐ後ろでタケシが観戦している】
リュウ：竜巻扇風機脚！昇竜の拳！
ガイル：ぐわあああ！
コンピューター：YOU WIN！
タケシ：よっしゃあ！21連勝！ワタルお前天才だな！あと5人で地区記録超えるぞ！
ワタル：今のは結構いい試合だったね！
タケシ：おう！ でも最後のコンボは狙ってたろ？
ワタル：分かった？ 相手の攻めパターン、途中でなんとなく読めてきたから。
タケル：それ見切れるの俺らぐらいだけどな！ ははっ！
ワタル：ふふっ。
コンピュータ：NEXT CHARENGER！
タケシ：おっ！ 来た来た！ 次もサクッと行けよ！
不良：にいちゃんたち、そのへんにしとけや
ワタル：えっ？
タケシ：な、なんすか？ いきなり……
不良、タケシの胸倉をつかむ
不良：もうやめとけいうとんじゃ。25人抜きはカオル兄貴が命がけで達成した大記録や！誰にも破らせるわけにはいかんのや！
タケシ：そ、そんなこと言われても……
ワタル：は、離してください……
不良：表でろや
ワタル：わっ！ ちょ、ちょっと……！
ワタルもつかまれ、二人外に連れて行かれる。
【路地裏にある廃工場的な場所にワタルとタケシが連れてこられる】
不良：ここならええか。誰もこおへん。
【不良、二人を突き放す】
ワタル・タケシ：うわっ！
不良：お前ら……
タケシ：……な、なんですか？
不良：頼む！ あのゲームをもうやらんといてくれ！ カオル兄貴の記録、やぶらんといてやってくれ！
タケシ：えっ！？そ、そんな……
不良：そうか……それやったら、せめてこの地区のゲーセンではやらんといてくれ！
どうしても兄貴の記録、守ってやりたいんや！ な！ 頼むわ！
ワタル：そ、そんな、……馬鹿なこと言わないでください
タケシ：お、おい……
不良：何……今なんつった？
ワタル：ぐっ、そ、そんなの無茶苦茶です！ 馬鹿げてますよ！
不良：馬鹿、だと……。おまえ、ゆるさねえ……俺は……決して……馬鹿ではないーつ！！！
ワタル：うっ！
タケシ：うわっ！ なんだこいつ！！ 体がでかくなっていく！
ワタル：くそっ！ タケシ逃げるんだ！ こいつ、やばい！！
タケシ：ああ！うわあー！ ん！？ ワタル！ 何してる！？ お前も早く来い！
ワタル：いいから早く逃げろ！ 僕もすぐ行くから！
タケシ：あ、ああ……！
【タケシ逃げる】
不良：フシューッ…… 関西弁の昔風ヤンキーは仮の姿。
俺は最強の水棲哺乳動物、カバがもつ遺伝子を超進化させて生まれたカバビースト様だ！
この俺様を馬鹿呼ばわりした報いを受けろ！
ワタル：フッ、まさか、お前がバイオビーストだったとはな……。
不良：何！？ お前は何者だ！？
ワタル：気弱そうな草食系男子高校生はお前たちを呼び寄せる仮の姿。
俺はお前たちバイオビーストを倒すために創られた改造人間だ！！
ビースト：ま、まさか！？ お前があの……ビースト狩り！！
ワタル：バイオビースト相手なら手加減はしない。わが真の姿を見たときがお前の最後だ！ ……変！身！！
【変身ファンファーレ】
少女：正義と、真実と、公正の名の下に、魔法少女、参上いたしました！
【ジャーン！的な魔法効果音】
ビースト：えええええええーっ！？ お、お前がー！？？
【遠くまで逃げてきたタケシ】
タケシ：はあ、はあ、はあ…… ワタルの奴、まだ来てない！！ どうしたんだ！？
まさかあいつに捕まってるんじゃ……ちくしょう！
【タケシ引き返す】
ビースト：貴様がビースト狩りだと？
少女：努力の末に得られた実力が伴ってこそ、記録は貴いのです。弱者を虐げ、虚妄の栄光に酔う魔獣。 許しはしません！
ビースト：ふんっ！ なーにを言ってやがる。片腹痛いわ！ お前のその細腕に何ができる！ くらえ！ ウォーターウィップ！！
【鞭がしなる音（尻尾の先から放出される水が鞭のように飛んでくるイメージ）】
少女：くっ！
【壁が崩れる音】
ビースト：フハハハ、この高速の水の鞭！いつまでよけきれるかな？
【鞭の音、壁が崩れる音が続く】
ビースト：ほらほら逃げろ逃げろ。じっくり料理してやる！
少女：ハッ！
ビースト：ほうら、もう後がないぞ！ハッハッハ！
少女：あなたにふさわしい聖獣、決まりました！
ビースト：なに！？
少女：召還魔弓（しょうかんまきゅう）、降臨！
【魔法アイテム登場効果音】
ビースト：なんだその弓はあ！！
少女：サンダードラゴン！
【弓を射る音。そして竜の鳴き声と稲妻の音】
ビースト：な、なにい！！
【電気でしびれる音】
ビースト：グワアハハアアアー！ 死ぬ！ 死ぬ！ 助けてくれー！ 頼む、頼むー！
少女：水属性の敵には雷攻撃が正解です。もう、悪事を働かないと誓いますか？
ビースト：ち、誓うっ！誓いますう……！
少女：あなたのその目。信じます。サンダードラゴン、もういいでしょう。還りなさい！
【竜の鳴き声、天に向かって去っていく】
【タケシが戻ってきて、物陰からそっと窺う】
タケシ：はあはあ、ワタル無事か…… えっ！？ なんだあの娘は！？ なっ！？ め、めっちゃかわいい〜！！
少女：これからは心を入れ替えて善を行いなさい。あなたの心に悪がはびこるとき、私はいつでも現れます。次は容赦しません
ビースト：はいっ！あねさん！そりゃあもう！
少女：では、さらばです！
【変身解除の音】
ワタル：おっ！戻った。どうやら上手くやったみたいだな。おいビースト！ 今度悪さをしたらただじゃすまないからな！
ビースト：ごにょごにょ……
ワタル：ん？なんか言ったか！？
ビースト：お前を倒せば……
ワタル：えっ
ビースト：お前を倒せば、俺は魔将軍になれる！ 変身前のお前ならたやすいことだ！
ワタル：な、なーつ！？
ビースト：はーっはっは！ 俺をいかしたままで、変身をといたお前の愚かさをのろいな！
ワタル：あ、あれ？
【ワタル再び魔法少女に変身】
ビースト：えっ？
少女：スタンバイモードにしておいて正解でした。
ビースト：スタンバイモード！？ そ、そんなんあるんか！？
少女：あなたの曲がったその心。もう容赦しません！
ビースト：ちょっ、ちょっとお！！
少女：召還魔弓降臨！サンダードラゴン！
【弓を射る音、竜の鳴き声、稲妻】
ビースト：ウワッツシャー！
少女：魔獣よ、闇に帰りなさい！
【ビースト昇天音もしくは断末魔の叫び】
タケシ：ま、マジ、イカス！！ うおーっ……マジほれた！
【変身解除音】
ワタル：お、今度は大丈夫みたいだな。まったく、変身している間の記憶がないってのも困りもんだよ。……
【タケシ、ワタルに駆け寄る】
タケシ：ワ、ワタル、お、お前はいったい？
ワタル：タケシ！ お前、見てたのか……。そうさ、あれが僕の、いや俺の正体なんだ。
タケシ：！！
ワタル：……宿命って奴さ。
タケシ：俺と、付き合ってくれ！！！
ワタル：え、えええええ〜！！！？
【洞窟の中だろうか、水滴の落ちる音。不吉なBGM】
ミスビースト：ビーストキング様、お耳に入れたいことが
ビーストキング：ミスビーストか、なんだ、申してみよ
ミスビースト：はっ。 カバビーストからの信号が突然途絶えました。
ビーストキング：なに……
ミスビースト：これで今月に入り4体目、合計10体のビースト兵が原因不明の失踪を遂げたことになります。
ビーストキング：ビースト狩りめ……。 で、なにか手がかりは見つかったのか
ミスビースト：いえ、ですがビースト消滅の直前に、共通した人間と接触している可能性があることがわかりました。
こちらの写真をご覧ください。
ビーストキング：む、こやつは……？
ミスビースト：この少年の名は鈴木ワタル、渋沢高校の1年生です。
ビーストキング：ワタル！ ワタルだとう！？
ミスビースト：ビ、ビーストキング様？
ビーストキング：フフ、フフフ、フハハハハハハハハハ！
ミスビースト：この少年は何者なのです？
ビーストキング： ミスビーストよ！
ミスビースト：はっ！
ビーストキング：こやつをなんとしてでも捕獲し、連れてくるのだ！ 生死は問わん！
ミスビースト：はっ！ すでにサイビーストが向かっております。
ビーストキング：サイビーストか、やつは確かカバビーストの兄だったな？
ミスビースト：はい、サイビーストめ復讐に燃えております。必ずやビースト狩りの正体を突き止めるでしょう。
ビーストキング：フフフハハハハ。 よかろう。
ミスビースト：ところで、ビーストキング様。
ビーストキング：なんだ？
ミスビースト：ワタルとは一体何者なのですか？
ビーストキング：お前は知らずともよい。黙ってワシの命に従っておればよいのだ！
ミスビースト：ははっ！
【再び、水滴の音】
ビーストキング：ミスビーストよ
ミスビースト：はっ
ビーストキング：ところで雨漏りはいつ直るのだ？
ミスビースト：ただいま、ネットで各社に見積もりを取っております。もうしばらくお待ちください
ビーストキング：そうか……
第一話 完
