最終話「遥かなる流れの果てに……」
【15年前、研究所、すでに火の手が上がっている。ヒトミが出口に立ち、博士を呼ぶ】
ヒトミ：博士！ 早くこちらへ！
【博士駆け寄る】
博士：ヒトミくん、これを
ヒトミ：これは！？ 森羅万象システム！？ 破壊しなかったのですか？
博士：ええ。もし、ここで彼を食い止めることができなかったら、これが唯一の希望となるわ。これをワタルに！
ヒトミ：え！？ は、博士！？
博士：……ワタルのこと、よろしくお願いします
ヒトミ：そ、そんな！？ 博士も一緒に……！
博士：私はここで、彼を止めます。 それが私の運命なのよ
ヒトミ：な、何を言うんです！ 博士には、まだやらねばならないことが……
博士：いいえ、しなくてはならないのは、今、彼を止めることなのよ
ヒトミ：そ、そんな！ ワタルちゃんは、あの子は、どうなるのです！？
博士：……大丈夫。私は死なない。彼との決着をつけ、必ず戻るわ
ヒトミ：無茶ですよ！ 彼はもうすでに人ではなくなっています！
博士：ヒトミくん、お願い……！
ヒトミ：そんな……。 僕は……僕は、博士を、ずっと博士のことを！
【ズシーン！と地響きがして、敵が迫る気配】
博士：ヒトミくん、ありがとう。 ……思えばずっと、あなたに助けられていましたね。
こんな私について来てくれて、本当に、ありがとう！
ヒトミ：そんな……
【ズシーン！さっきよりも大きな音。すぐそこまで危機が迫っている】
博士：さあ、もう行って下さい。 ワタルのこと、よろしくお願いします！
ヒトミ：……博士、どうかご無事で！
【ヒトミ、森羅万象システムを受け取り、走り去る】
【回想シーン終わる】
ヒトミ：（モノローグ）あの時、私は博士のことを守り抜くことができなかった。
……そして今、またあの時と同じ様に、二人が合間見えることになってしまったわ。
……でも今度こそ、今度こそ、共に戦わせていただきます！ 博士！
【ビーストキングのアジト最上階で、魔法少女とビーストキングが対峙している。
それぞれの背後でタケシ、ミスビーストが成り行きを見守る】
ビーストキング：その姿昔のままだな。 美しいぞ！
少女：あの爆発からよく生き残れたものですね
ビーストキング：研究所が跡形なく吹き飛ぶほどの爆発だ。ワシとてまさに半死半生のダメージを受けた。
おかげでこの身体に戻るまで15年もかかったわ。だがお前こそ、まさか森羅万象システムを残していたとはな。
ワタルの行方がようとして知れぬのも不可思議ではあったが……
少女：あの日、あなたのたくらみに気がついた私は、残されたわずかな時間を使って、
私の記憶、人格、身体の全てをシステムにリンクさせました。
そしてワタルに託したのです。あなたの野望を食い止める望みを！
ビーストキング：フン！ しかしその望みもここでついえるわけだ！
少女：あなたを倒すことでしか、ワタルに、人類に、未来は開けません。さあ、今ここで、決着をつけましょう！
ビーストキング：いいだろう！ お前を殺し、全てを手に入れてやる！
少女：これが、私たちの運命……。行きます！
ビーストキング：来るがいい！
少女：ファイアードラゴン！
【弓を射る音、龍の鳴き声、炎が燃え上がる音】
ビーストキング：なるほど！ これが森羅万象システムの力か！ だが効かぬ！
少女：な！？ ならば……サンダードラゴン！
【弓を射る音、龍の鳴き声、雷が落ちる音】
ビーストキング： 効かぬ！ 効かぬ！
少女：くっ、……アイスドラゴン！
【弓を射る音、龍の鳴き声、凍りつく音】
ビーストキング：フフフフ、ハハハハハ、ハーッハッハ！
タケシ：そ、そんな、召還魔弓が……
ヒトミ：『効いてない！？』
少女：一体、これは……！？
ビーストキング：その森羅万象システムに対抗するため、ワシはありとあらゆるビーストの遺伝子を取り込んでおるのだ。
すなわちワシに弱点は存在しない。 火、雷、氷、風、全ての攻撃に対抗できるのだ！
少女：そ、そんな！？ ……どうすれば
ビーストキング：そして、どうやら時間切れのようだな
ヒトミ：『……ダメ、これ以上変身を維持できない！』
少女：うっ！ 変身が、解けてしまう……！
タケシ：ま、魔法少女さん！
ヒトミ：『博士！』
【波の音が聞こえる。そこは海岸。浜辺でワタルが座っている】
ワタル：（モノローグ）いつも僕はここにくる。 この海を眺め、この波音を聴いていると、なぜか心が安らぐんだ……
【砂浜を歩く足音。少女がやってくる】
少女：ここは記憶の海よ。この世界のありとあらゆる情報の全て……
ワタル：きみは……？
少女：……ワタル、会いたかった！
ワタル：……母さん？
少女：ええ
ワタル：僕の、母さん……
少女：そうよ、 あなたと、こうして話ができるなんて！
ワタル：僕の……
少女：ああ！ 本当に、大きくなったのね！
ワタル：……う、うん
少女：……ワタル？
ワタル：……ごめんね。なんか、変な感じなんだ。
その……、母さんは死んだって、ずっと、思ってたから。あ、それはそうなのか……
少女：……そうね。私はすでにこの世にはいないわ。
今の私は、森羅万象システムが、私の、過去の情報をもとに再構成した存在よ。
ワタル：うん、いや、でも本当は、こんな形でも、会えて、嬉しいんだろうけど…… いないのが、当たり前だったから……
なんか、実感わかないっていうか……
少女：……あなたをひとりにして本当にごめんなさい。きっと、とてもさみしかったでしょう……
ワタル：……僕には、ヒトミさんがいてくれたから。大丈夫だよ
少女：そう……
ワタル：……うん
少女：……そうね！ ヒトミ君に感謝しなくてはいけませんね！ ワタルもこんなにたくましく育ってくれて……
ワタル：うそ
少女：え？
ワタル：嘘だよ！ そんなわけないよ！ ずっと、ずっと会いたかったよ！
【少女、ワタルを抱きしめる】
少女：ごめんなさい、ワタル、……わたしも、ずっとあなたといたかったわ
ワタル：……うん
【波の音大きくなる。時間が少し経過したことを表現】
ワタル：ずっとこうしていたいな……
少女：……いいえ、私たちの意識がつながったのは、森羅万象システムが解除されて、細胞が私からワタルに戻る
その一瞬に起きた偶然によるものなの。 おそらく外の世界では1秒にも満たない時間の中に私たちはいるわ
ワタル：それじゃあ……
少女：そう、きっと、もうあまり時間は残されていないわ。 ワタル、これをあなたに渡さなくては。
ワタル：これは？
少女：召還魔弓。森羅万象システムの根幹をなすものよ
ワタル：森羅万象システムの？
少女：ええ、これの扱い方を教えるわ。……それと、あの人のことを話しておかなくてはなりませんね……
ワタル：あの人……？
【場面転換、ビーストキングとの戦いの場へ】
タケシ：ま、魔法少女さん！
ヒトミ：『博士！』
タケシ：ああ！ 変身が解けてしまった……
ワタル：う、ん……
ビーストキング：感動のご対面だな！ ワタルよ！
ワタル：お前が、ビーストキング……。そして俺の……
ビーストキング：そうだ。 だが変身が解けてしまえば、もうお前になす術はない。
さっさと死んで、大人しく森羅万象システムを渡すがいい
ワタル：……心まで野獣にのっとられるとは。 哀れだな
ビーストキング：フン！ 情けをかけるとでも思ったか。
お前が誰であろうと関係ない、ワシ以外の全ての人間は、わが野望のための駒に過ぎぬのだ！
ワタル：……そうか、でもその方がこっちもやりやすい
ビーストキング：む？ 何を言っている？
ワタル：残念だが、あんたの野望はここで終わる
ビーストキング：フン！ 笑わせるな。 ただの人間がどうしようというのだ！
ワタル：たった今、母さんから受け継いだんだ……
ビーストキング：……何？ 一体何を受け継いだというのだ！？
ワタル：未来への希望をさ！ 召還魔弓！
ビーストキング：な、何！？
ワタル：降臨！！
【魔弓登場音】
ビーストキング：そんなバカな！？ お前にそれが操れるというのか！？
……だとしても無駄だ！ ワシにはどのような攻撃も効かぬ！
ワタル：いくらお前がすべての動物の遺伝子を寄せ集めたとしても、対抗できないものがひとつだけある！
ビーストキング：フン！ ハッタリをぬかすな！
ワタル：わが母の名の元に命ずる！ はるけき時の流れより、舞い出て全てを支配せよ。……出でよ！ クロノドラゴン！
【弓を射る音。龍の鳴き声。時計が早まわしになる音？】
ビーストキング：無駄だ！無駄だ！ む！？ ……な、なんだこれは！？ き、貴様なにをした！？
ワタル：過去から現在までの、時間の流れを圧縮して呼び出し、お前の周囲で実体化させた！
今、あんたの体では1000万倍のスピードで時が流れている（1秒間に約115日）
ビースト：グオオオオオ！ か、体が、細胞が、崩れていく！
ワタル：全ての生命が抗えぬもの。……それは寿命だ！
ビースト：グオオオオオオ！ そ、そんなバカな！ 全ての生物の頂点に立つ、このワシが……！ グオオオオオオ！
【ビーストキング、倒れる】
ミスビースト：ビ、ビーストキング様！
【ミスビースト、ビーストキングに駆け寄り、抱き起こす】
ワタル：……これで、いいんだ
ビーストキング：……ワタ……
ワタル：？
ビーストキング：……ワタル
ワタル：え……？
ビーストキング：……ワタル、大きくなったな
ミスビースト：ビーストキング、様……？
ワタル：！！ ……ま、まさか正気に！？
タケシ：ど、どういうことだ？
ヒトミ：『ビーストキングは、ワタルちゃんのお父さんなの……』
タケシ：な、何だって！？ そ、それじゃあ……
ビーストキング：……ああ お前のおかげで、目が覚めた……お前と母さんには、本当にすまないことをしたな……
【ワタル、少しずつビーストキングに近づく】
ビーストキング：……それにしても、でかくなったな
ワタル：……
ビーストキング：元気で、やってるか？ ってのも変だよな……
ワタル：……
ビーストキング：……見たところ健康そうだ
ワタル：何だよそれ……
ビーストキング：ハハハ……何か、父親らしいこと、言ってやりたいんだけど、今さらだよな
ワタル：……いいよ、もう
ビーストキング：ハハ…… でもこれだけは、言わせてくれないか
ワタル：……何？
ビーストキング：お前が生まれたとき、この世の全ての幸福が、俺たちの元に、集まってきたのかと思ったよ……
ワタル：え……
ビーストキング：そして、いつかお前に誇れる科学者になろうと、研究に没頭した俺は、自らに遺伝子操作を施した。
だが、そこから歯車が狂い始めた…… 獣の持つ野性が、野心となって理性を圧倒し、
人としての道を、大きく踏み外していったのだ
ワタル：……そうだったのか
ビーストキング：他のビーストたちも同じだ。彼らは、もともと生きる理由を探しているだけの、普通の人間だった。
俺が自分の野望に、彼らを巻き込んだんだ。
ワタルよ、こんなことを、頼めた義理ではないんだが、あいつらを社会に馴染めるように
導いてやってくれないか？
ワタル：え……
ビーストキング：頼む。奴らに、俺と同じ道を、歩ませないでくれ
ワタル：……そ、そんな、勝手だよ
ビーストキング：勝手は承知だ。だが、これは、お前にしかできないことなんだ
ワタル：……
ビーストキング：頼む
ワタル：……分かった
ビーストキング：すまない……だが、ありがとう！ ……ミスビーストよ
ミスビースト：はっ
ビーストキング：ワタルなら、ビーストたちをまとめられるだろう。これからは、こいつをサポートしてやってくれ
ミスビースト：……はっ
ビーストキング：ミスビーストよ
ミスビースト：はっ
ビーストキング：……今まで、ご苦労であった。礼を言うぞ
ミスビースト：ビ、ビーストキング、様……
ビーストキング：これからも、よろしく頼む！
ミスビースト：……は！
ビーストキング：さて、そろそろ時間のようだ……ワタル、お前の成長した姿が見られて嬉しいよ。
いろいろ迷惑、かけちまったが、いや、これからもかけちまうだろうが、あとはお前に任せる。
これからは、お前の信じた道を歩くんだぞ。後悔しないようにな
ワタル：ちょ、ちょっと待ってくれよ
ビーストキング：それじゃあな！
ワタル：ま、待ってよ！ まだ……！
ビーストキング：ワタル！ 俺たちの息子になってくれてありがとう！ 愛してる！
ワタル：父さん！！
【ワタル、父の手を掴もうとするが……】
ミスビースト：ああっ……
【ビーストキング、消滅する】
タケシ：ワタル……
ヒトミ：『ワタルちゃん……』
【場面転換 数日後。ワタル自室にてビデオに向かってしゃべる】
ワタル：録画スタートと。 よし、ちゃんと撮れてるな。
……母さん、こんにちは。調子はどう？ってのも変か。あれからいろいろあって、ようやくちょっとだけ落ち着いてきたよ。
僕、BKA48サービスっていう、父さんの会社の社長になっちゃった。
まあ、社長っていっても、高校行きながらだし、仕事なんて、分からないことだらけなんだけどね。
でもミスビーストさんが丁寧に教えてくれて、すごく手伝ってくれてるおかげで、まあなんとかやっていけてるよ。
【ミスビーストによる指導。イメージシーン挿入】
ミスビースト：いいですか、社長、ここがこうして、ああなって、こうなるからこう……
ワタル：社員さんも、っていうかビーストさん達なんだけど、意外に、殆どの人は割と大人しくって、僕にも好意的かな。
まあ、中には僕なんか認めないっていう人もいるみたいだけど……。
これからみんなに認めてもらえるように頑張らなくちゃね。
でもね、成り行きでなってしまったけど、結構、僕的にはこの仕事にやりがいを感じてるんだ。
会社のメインの仕事は役者の派遣で、……あ、母さんは知ってるかな？
“仮面ライダー”っていう特撮もののヒーロー番組があるんだけど、その中に出てくる敵役の怪人は、
全部うちの社員が演じてるんだよ！
【撮影現場のイメージシーン挿入】
ビースト社員：覚悟しろ仮面ライダー！ 貴様の命も今日限りだあ！
ワタル：特殊効果込みの役者ってうちだけだから、この業界じゃ前から結構有名だったみたい。
僕も全然知らなかったんだけどね。
それでね、今、僕が進めている話が、アメリカの映画プロダクションとの契約なんだ！
これが上手くいけば、みんなもっともっと活躍できるよ！
まだミスビーストさん以外には秘密にしてるんだけど、この話が決まれば、きっとみんな、すごく喜ぶだろうなあ……！
【部屋のドア越しに皆がワタルを呼ぶ声が聞こえる】
タケシ：おーい、ワタル！ どこだ〜？
ミスビースト：社長〜！
ヒトミ：ワタルちゃーん？
ワタル：あ、みんな探してるや。 実はこれから旅行も兼ねて、ハリウッドで商談なんだ！
じゃあ、今回のビデオレターはここまで。 この通り、僕は元気でやってるよ。 それじゃあ母さん、返事待ってるからね！
《 改造人間魔法少女 完 》
＜おまけ＞
ヒトミさんのQ&A
Ｑ：森羅万象システムでなんでも召還できるんなら、ワタルのお母さんそのものを実体化しちゃえばいいんじゃないの？
わざわざ、ワタルと入替わりにするんじゃなくてさ。
Ａヒトミ：おりこうさんねえ！ それができればワタルちゃんもさびしい思いをしなくて済むのにね。
でも残念ながら、生体を呼び出すには、森羅万象システムを組み込んだ生体、つまりワタルちゃん自身を、
媒介にしないといけないの。
しかもワタルちゃんの情報をバックアップしながらだから、変身状態を保持できる時間にも限りがあるのよ。
一方、自然エネルギーを呼び出すときは、現在の空間の分子構造を書き換えながら物質化しているので、
無限にエネルギーを取り出せるわ。
Ｑ：どうしてヒトミさんはワタルに、変身のことを16歳まで、秘密にしていたの？
Ａヒトミ：変身するには、ワタルちゃんの質量が、博士、つまりお母さん以上でないといけないの。
だからワタルちゃんが大きくなって、変身できるようになるまで秘密にして待っていたの。知ったら変身したくなっちゃうでしょ。
Ｑ：ヒトミさんはいつから、その……、女の人っぽく？なったんですか？
Ａヒトミ：ウフ、15年前からよ。
ワタルちゃんを育てるためにはお母さんの役割が必要だと思ったの。
プラス、ビーストキングが万一生きていたときのことを考えて、身を隠すための変装も兼ねてね。
……あら、もしかして私に惚れちゃったの？
