「いいわね翔？ミッション・スタート！！」
「OK、レイナ。変身！！」
車上の青年が起動コードを発した瞬間、腰部のバックル部分の風車上のユニットが激しく回転し、ネット上の特殊強化繊維を射出する。
青年の頭部以外を包み込んだ特殊強化繊維は、幾重にも重なりながら特殊強化服を形成していく。
同時に青年の頭部を保護しているヘルメットも変形し、一対の視覚センサーが赤く光ると、一見髑髏のような印象を与える外見へと変わっていた。
ヘルメットの中央から、２本の細長い触角上のセンサーが突き出し、中央部にセンサーユニットが出現するとようやく「変身」が完了した。
同時に青年のバイクも市販車の姿から、兵装モードに変形しており、その側面には「雷神」とマーキングされていた。
兵装を終えた青年の体に鋭い衝撃が走ると同時に、「仮面」と呼称される頭部センサーユニットと「セカンドスキン」と呼ばれる戦闘強化スーツが青年の肉体と接続され、各種センサーからもたらされる情報がまるで自身の感覚器官によるもののように脳内に伝達される。
●真・仮面ライダー（第２話）
「あれがターゲットよ」
レイナからの指示を待つまでもなく、翔は倒すべき相手の姿を既に認識していた。
「お前がカルテットの新しい『商品サンプル』か？」
「ああ、あんたら財団の『レベル６』を倒してカルテットの優位性を裏の世界で評価させることが俺の仕事ってわけさ」
「ほう、兵装スーツ、多目的高感度センサー、２輪車両型機動兵器そして強化人間。
４つの兵器用技術を結集し最強の機動兵器を作り上げたというわけか。面白いまさしく『カルテット』という名にふさわしい。
だがそれで究極の進化を遂げた我々レベル６に勝てるかな？」
そう言うと財団の強化兵士は一見サラリーマン風の外見から、瞬時に変化を遂げた。
メカニックと人体そして動植物を組み合わせたようなグロテスクな容貌は、初めてではなかったが、それでも青年に多少の動揺を与えた。
「最初は素手で相手してやる。来い！！」
男はそう言うとすさまじい勢いで青年＝翔の元へと飛びかかってきた。
「ガッキーーン！！」
激しい金属音が響いた。翔はかろうじて両腕でガードしたが、兵装スーツのプロテクターには大きな傷跡が残っていた。
『こいつのモチーフはネコ科の猛獣ってわけか』
男の攻撃を受けながら翔は冷静に相手の能力を分析していた。傷つけられたプロテクターもいつの間にか元に戻っている。
『面白い。ぞくぞくしてきた！！』
仮面の下の翔の口元にはいつの間にか不敵な笑みが浮かんでいた。
「翔、何やってんのよ！！遊んでる場合じゃないでしょう！！」
「わかった、わかった！真面目にやりゃいいんだろう。言われなくたってわかってるさ。
なんせこいつらは…、親父の仇なんだからなっ！！」
その瞬間、仮面の下の翔の表情は激しい怒りに覆われていた。
よく見るとその容貌も普通の人間とは異なり、目は真っ赤に妖しく光り、口元には鋭い牙が、そして眉間には先ほどまではなかった赤い突起状の超感覚器官＝第３の目が現れていた。
「いよいよ本気というわけか。いいだろう、私の性能を存分に味わうがいい。」
そう言うとレベル６の強化兵士＝ジャガーは腰部のサイドボックスからコイン状のメモリーチップを取り出し、ベルトのバックル部分にセットした。
「ドクン！！」
一瞬激しく身震いをしたかと思うと、ジャガーのヘルメットとボディプロテクターが吹き飛び、豹頭の獣人が現れた。
しかも変化はそれだけではなかった。
周囲に駐車してあった自動車やバイクなど、ジャガーが触れたものはまるで魔法にかけられたかのように、塵状となってその体を包み込み、次第にボディプロテクターを形成していったのである。
他の生物の能力を有し、無機質との融合が可能なだけではなく、メモリーチップにプログラムされた情報を元に、物体を分子レベルで分解・再構成する、それが「レベル６」に与えられた能力であった。
「どうだ驚いたか、１０数年前にMASKED・RIDERと戦って敗れたレベル４から我々はさらなる進化を遂げたのだ。
いまさら強化人間に強化服を着せた程度では、相手にならないと思うが、このまま続けるか？」
ジャガーは自身の有利性を微塵も疑っていなかった。そしてそれが彼の不幸の始まりだった。
変形を完了したジャガーのボディーは、一見華奢な印象ではあるが、先ほど翔の腕部プロテクターを傷つけた爪の代わりに、ひじから先を変形させた巨大な電磁ブレードが装備されていた。
まるで試し切りでもするように、両腕のブレードを軽く振り回すと、周囲の建築物や自動車がまるでバターのように何の抵抗もなく切り裂かれていく。徐々にスピードを加速しながらジャガーは翔の方へと突進した。
普通の人間なら認識できないほどの超スピードで迫るジャガーの攻撃を翔は軽々とかわしていた。
もちろん仮面に装備されたセンサーと自身の第３の目の超感覚によってジャガーの動きを捉えてはいるのだが、驚くべきはジャガーのスピードに対等以上の動きで対抗できる、その身体能力であった。
これまで幾多の人間を血祭りに上げてきたジャガーの両腕の刃は、翔を捉える事が出来なかった。
「思いのほかいい動きをしているな。だがそのスピード、いつまでもつかな？」
ジャガーはそう言うとさらに両腕の刃を繰り出すスピードを加速した。
「何やってるの？いったん離れて距離をとるのよ！！」
「そんな簡単に出来りゃ、とっくにやってるよ！！」
レイナの叱咤に翔は思わず大声をあげた。
『一か八かだ！』
翔は覚悟を決めると、ジャガーの懐に飛び込んだ。
とっさに首を刈ろうとするジャガーの両腕をすんでのところでかわし、両肘に当たる部分をつかむと、翔は渾身の力を込めた。
仮面の複眼を模した視覚センサーと第３の目と接続されている中央部のユニットが輝きだした。
同時にベルトのバックルに内蔵された風車が他のダイナモが激しく回転を始めた。
「おおりゃあー！！」
翔は激しい雄叫びをあげると、さらに両腕に力をこめジャガーの両腕を粉々に粉砕した。
翔に与えられた兵装用強化服には現代のオリハルコンと称される、「サイコメタル」が織り込まれている。
サイコメタルは装着者の精神状態に応じてその硬度を自由に変化させることができるだけでなく、増幅したサイコエネルギーを装着者にフィードバックし、超人化させる機能を有しているのである。
ジャガーはすぐに両腕の再生を行うために「材料」となる物質を求めてその場から離脱しようとした。
「ガッキ！！」
首に激しい衝撃を感じジャガーが目線を移すと、雷神にまたがった翔が見えた。
翔はジャガーを引きずったまま雷神を走らせ、加速させると人気のない、建築物が撤去されたばかりの再開発区域へと移動した。
その間ジャガーは必死に抵抗を試みたが、サイコメタルの性能を最大限に引き出した翔の力と雷神の速度になすすべがなかった。
再開発区域に到着するや否や、ジャガーはすさまじい勢いで放り出された。空中で何とか姿勢を整えようとした瞬間、その眼に翔の姿が映し出された。
ジャガーが何の抵抗を試みることもできないまま、腹部のバックル部に翔の渾身の一撃が放たれた。
激しい勢いで地面にたたきつけられると同時に、制御ユニットを破壊されたジャガーの肉体は一旦膨張したあと、飽和状態となり細胞の破壊とともにやがて泡状に溶解した。
「まったく危なかしくって見ていられなかったわよ！！」
「悪かったな。まだうまく使いこなせないんだよ。このスーツも俺自身の力も…」
不意に現れたレイナを前に翔は仮面を外しながら不機嫌そうに答えた。
To be continued…