第三話
改造人間魔法少女
第三話
【ワタル、日常の高校生活。教室にて生徒Ａ、Ｂが会話している。その後ろの席で、ワタルが本を読んでいる】
生徒Ａ：ホント、うっとおしい！ いちいち親にテストの点数なんか報告してられるかよ！
生徒Ｂ：マジ？ うちのはテストは聞いてこないけど、ちょっと門限破っただけで、超キレルしさ！
昨日も怒鳴られてマジ最悪って感じ？
生徒Ａ：ハハハ、お前とこの親父って、マジこわそうだし！
生徒Ｂ：笑い事じゃないって！ もう！ ねえ、鈴木君の親とかも厳しかったりするの？
ワタル：え……
生徒Ａ：あ、こいつんところは……
生徒Ｂ：え？ ……あ！ ご、ごめん……
ワタル：……いや、別にいいよ……
生徒Ｂ：ごめんね！ ……ところでさあ、昨日のツキコイ観たあ？
生徒Ａ：観た観た、マジつまんなかったよ！
生徒Ｂ：何言ってんの！マジ良かったって！
【生徒ＡＢの会話フェードアウト】
ワタル：(モノローグ)……ホント、別にいいんだ。親なんていなくても……
【ワタル自宅リビングテーブルにて、ワタル・タケシがヒトミと向かい合って座っている】
ワタル：教えてくれよ！ ヒトミさん！ 俺って改造人間じゃなかったのかよ！？ 魔法少女ってなんのことだよ！？
ヒトミ：……ついに、全てのことを話すときが来たようね
ワタル：！？
ヒトミ：ワタルちゃん、あなたのご両親は政府の機関で、バイオテクノロジー、特に遺伝子の研究をしていたわ。
これは話していたわよね？
ワタル：……ああ、聞いてる
ヒトミ：じゃあ、遺伝子は生物が進化する38億年の歴史を記録している、って話、聞いたことある？
ワタル：「ゲノム論」でしょ？ 動物だけでなく、植物も含めた全ての生物のＤＮＡには、
生命の進化の歴史が記録されている、っていう
ヒトミ：そうよ、さすがワタルちゃんね！ でもね、その記録にあたる部分を調べていたら、
それが単なるデータではないってことが分かってきたの
ワタル：どういうこと？
ヒトミ：そうねえ……、ワタルちゃん、インターネットよくやるでしょう？
ワタル：え……うん
ヒトミ：それでいろんなサイトにアクセスして、いろんな情報をダウンロードするわよね
ワタル：うん
ヒトミ：それと同じように、その遺伝子の塩基配列は、過去の時間にアクセスして、
進化に関わる情報をダウンロードするためのプログラムであることが分かったの。
いわば、時空を超えたインターネットが私たちのDNAにインストールされている、っていうわけ
ワタル：じゃあ、その遺伝子は過去から必要な情報を引っ張ってきて、それを現在の肉体にフィードバックしてるってこと？
ヒトミ：そういうことね。タケシ君も大丈夫？
タケシ：は、はあ……なんかスゴイってことだけは分かります
ヒトミ：でも話はここからなのよ。 博士はその遺伝子プログラムを自分の思うままに働かせて、
過去のあらゆる情報を呼び出し、物質化する方法を見つけちゃったの！
タケシ：そ、それって、なんかスゴくないっすか！？ノ、ノーベル賞ものの発見なんじゃ！？
ヒトミ：そうよ！ まさに世紀の大発見よ！ ……でも、それだけじゃないの。
呼び出せる情報は生物としての記憶だけじゃなく、ありとあらゆる自然現象、
たとえば落雷や、火山の噴火、隕石の衝突など、かってこの地球上で生物が体験した全ての事象を含んでいるの。
もし、そんなエネルギーを自在に実体化することが可能になったら……
ワタル：……兵器として利用される危険性がある？
ヒトミ：そう。 博士はこの発見を、人類にはまだ早すぎると判断して、誰にも発表しないまま封印しようとしたわ。
だけど同じ研究チームのメンバーで、それを悪用しようとする人間がいたの
ワタル：……ビーストキング
ヒトミ：そう。彼も遺伝子工学の優れた研究者だったわ。
その時すでに遺伝子融合を成功させ自在に超人を生み出すことに成功していた。
……だけどその頃から彼の心に黒い野望の火がともり始めていたの。
そのことに気がついた博士はひとつの決断を下したわ……
ワタル：決断？
ヒトミ：研究所を爆破して、自分の発明もろとも彼の野望をほおむり去ることよ。
でも万が一、彼の野望を止められなかった時の対抗手段として、博士は自分の発明の唯一の完成品をある場所に隠したの……
ワタル：まさか……！
ヒトミ：そう、あなたの中によ！
そして、ワタルちゃんが危機に陥ったとき、博士の発明、森羅万象システムの発動により、
過去から召還される人物こそ、博士その人。……つまりあなたのお母さんよ！
ワタル：っ！！
タケシ：ええ〜っ！？
ワタル：そ、そんな……
タケシ：で、でも、魔法少女って……？
ヒトミ：ああ、あれはただの博士の趣味よん！ あの人、ずっと魔法少女に憧れてたみたいだから
タケシ：しゅ、趣味ですか……
ヒトミ：そうなのよ〜、ああ見えて無邪気な人だったから。 改造人間とかの方が絶対かっこいいのにね！
タケシ：は、はあ……
ワタル：……僕の、母さん？
【水滴の音、不吉な音楽】
ミスビースト：さて、こちらの手配もしておかないと。
まずは一番見積もりの安い業者さんから順に来て頂くとしましょう。
雨漏りの修理といえど、できるだけ良い工事を、できるだけ安くしてもらうのが私の使命よ！
【ワタル・タケシ、ヒトミの部屋までやってくる】
ヒトミ：じゃーん！ ここがビースト対策本部よ！
タケシ：おお！ パソコンがいっぱい！
ワタル：ヒトミさんの部屋、いつの間に……
ヒトミ：やつらに正体がばれた以上、ここで大人しく待っているわけには行かないわ。こちらから急襲をかけないとね！
ワタル：でも、やつらの数も居場所も分からないんじゃ、手の出しようもないよ。
ヒトミ：大丈夫！ 博士はちゃんと手を打ってくれているわ。博士が放った追跡獣は、敵の影となって、どこまでもついていく。
今頃きっと奴らのアジトを突き止めているわ。
タケシ：追跡獣？ もしかして、あの時の……シャドードラゴン！ で、でもどうしてヒトミさんがそれを？
ヒトミ：変身中のデータは全てここに送られることになっているのよ。 それと変身にはここからのサポートが必要なの。
タケシ：そ、そうなんだ……
ヒトミ：……追跡獣の信号がこの場所でとまっているわね。ここがやつらの基地かしら？
しっ！ このポイントからの音声通信を傍受したわ……
【電波が錯綜する音、やがて音声が聞こえる】
業者：お電話ありがとうございます。 株式会社肋骨建設です
ミスビースト：先日インターネットから雨漏り修理の見積もりを依頼したBKA48サービスですが
業者：ああ、ありがとうございます お世話になります
ミスビースト：見積もりに来て頂きたいのですが、明日の夜6時ごろなどでも大丈夫でしょうか？
業者：ちょっと待ってください、……明日の、午後6時と、はい、オッケーですよ！
ミスビースト：では、明日午後6時に。建物にセキュリティがかかっていますので、玄関でお待ちください。
お迎えにあがりますので
業者：はい かしこまりました
ミスビースト：それでは宜しくお願いします。
業者：はい ありがとうございます！
【通信が切れる】
タケシ：これは……違うよな
ヒトミ：いえ……BKA48サービス、……BKA、……ビーストキング、アライアンス（連合）よ！
間違いないわ！ まったくあいつの考えそうなことだわ！
ワタル：（心の中で）48は？
タケシ：……ホントですか？ なんか雨漏りの修理頼んでましたけど。
ヒトミ：……使えるわね。
【水滴、不吉な音】
ミスビースト：ビーストキング様、例の件、手配終わりました。
ビーストキング：うむ。してワタルの居場所は突き止めたのか？
ミスビースト：はっ！ ただ今、ビースト兵達に調査させております
ビーストキング：そうか ……むっ！
ミスビースト：どうされました！？
ビーストキング：……ミスビーストよ、その必要はないようだ。貴様の影を見てみるがよい！
ミスビースト：えっ！？……はっ！ な、なんだこれは！？ 私の影が龍の形に！
ビーストキング：それはやつの術だ。われらの居場所を探るためのな
ミスビースト：なっ、なんと！！ ……この！！
【ミスビーストの攻撃によりシャドードラゴンは消滅する（龍の鳴き声）】
ビーストキング：やつらはじきにここにくる
ミスビースト：こ、この私としたことが！ 申し訳ありません！
ビーストキング：かまわん！ かえって探す手間が省けるというものよ！
……フフフフ来るがよい、ワタルよ！ ……たぎる、たぎる！ 血がたぎるわ！
【ワタル・タケシ、変装をしてビルの前に立つ】
タケシ：このビル、か？
ワタル：うん、間違いないと思うよ。ヒトミさん聞こえてる？
ヒトミ：『はーい、大丈夫よ！ そのビルで間違いないわ』
タケシ：なんか、一見普通のオフィスビルだな
ワタル：そうだね…… でも恐らくここが奴らの基地なんだ
ヒトミ：『そうよ。 二人とも気をつけて』
タケシ：……な、なあワタル
ワタル：どうしたの、タケシ？
タケシ：この変装……ばれないかな？
ワタル：大丈夫だと思うけど…… もっと帽子を深くかぶっとこうか
タケシ：いや、そうじゃなくて、なんというか、俺たちまだ高校生だろ？ そのへんでばれないかな？
ワタル：そういや、タケシ、前にHな映画観ようとして、係の人に止められたことあったんだよね
ヒトミ：『あら』
タケシ：うっ！ お、お前、ヒトミさんに変なことを言うな
ワタル：ふふふふ。もっと堂々としてれば大丈夫だって。 怪しまれず、中の様子を探るにはこの方法が一番だしね。
タケシ：お前はすごく落ち着いてるよな。こんな時なのに
ワタル：そう？
タケシ：うん、やっぱお前ってすごいやつだよな！
ワタル：（心中の台詞）『タケシ、君がいてくれるからだよ』
【OL風の女性が近づいてくる】
ミスビースト：肋骨建設の方ですね。お待たせしました。
ワタル：えっ、あ、お、お世話になります……
ミスビースト：こちらへどうぞ
ワタル：は、はい
【ミスビーストに連れられて、建物の中に】
タケシ：（お、おい、なんか全然普通の人なんだけど……）
ワタル：（う、うん……）
【エレベーターに乗り、最上階へ。“チン”という到着の音】
ミスビースト：さあ、どうぞ
ワタル：は、はい
タケシ：（中も普通だよな、ヒトミさんの間違いなんじゃ……）
ワタル：（う、うん……）
ミスビースト：着きました。こちらの部屋です。中へお入りください
ワタル：はい、……えと、あ、雨漏りはどのあたりでしょうか
ミスビースト：ちょっとお待ちくださいね
【ミスビースト、扉を閉めながら】
ミスビースト：残念ですが、漏れているのは雨水だけじゃなかったんです。もっと重要なものが漏れてしまっていて……
ワタル：えっ、それって……？
ミスビースト：それは……
【ミスビースト、扉の鍵をロックして、振り返る】
ミスビースト：それは我々キングビースト団の情報よ！ ワタル、貴様にな！
タケシ：ば、ばれてる！！
ワタル：しまった、罠か！ ヒトミさん！
ヒトミ：『聞こえているわ。落ち着いて、ワタルちゃん』
ミスビースト：さあ、変身なさい！ ビースト狩り！ わが同胞たちの仇、このミスビーストがとってくれる！
【ミスビースト変身】
ワタル：！ 仕方ない…… タケシ下がってて
タケシ：わ、分かった！
ヒトミ：『いつでもオッケーよ。ワタルちゃん』
ワタル： ……変身！
【変身ファンファーレ】
少女：正義と、真実と、公正の名の下に、魔法少女、参上いたしました！
【ジャーン！的な魔法効果音】
ミスビースト：正体を現したわね。 ビースト狩り！
ビーストキング様がどうしてお前にあれほどまで、こだわっておられるのか分からんが、
魔将軍である私の敵ではない！ 覚悟するがいい！
少女：立ちはだかる者が誰であろうと、容赦はしません！
ミスビースト：フン、生意気な口を！ ならこちらからいくぞ！
【ミスビーストが物凄いスピードで接近、右手の爪で魔法少女を攻撃する。間一髪で爪をのがれた魔法少女、腕にかすり傷を負う】
少女：きゃあ！
タケシ：魔法少女さん！
ミスビースト：オーホッホッホ！ 私は地上最速の動物、チーターの遺伝子を受け継いでいるのよ！
このスピード、貴様には捕らえきれまい！
【ミスビースト、自らの力を誇示するかのように高速で移動】
タケシ：な、なんて速さだ！ 目が追いつかない！
少女：召還魔弓光臨！
【アイテム登場音】
少女：アイスドラゴン！
【弓を射る音。竜の鳴き声、しかしミスビーストにかわされ、床に当たる。凍りつく音】
ミスビースト：ふっ！ 遅い遅い！
少女：アイスドラゴン！
【弓を射る音】
ミスビースト：何発打とうが、当たるものか！
少女：アイスドラゴン！
【弓を射る音】
ミスビースト：ふん！ 無駄なことを！
少女：そうかしら？
ミスビースト：何だと？ ……きゃあ！？
【ミスビースト転倒する】
ミスビースト：な！ こ、これは！？
タケシ：ゆ、床全体が凍っている！ いつの間に！？
ミスビースト：き、貴様！ 最初からこれが狙いで！
少女：正解です。 そして、あなたにふさわしい聖獣、決まりました！
【少女弓を構える】
ミスビースト：くっ！ ……私の負けだ。……さすがよい、とどめを！
少女：……ミスビースト、どうかこのまま退いて下さい。あなたを殺したくはありません
ミスビースト：なっ！？ 何人もの同志を殺しておいて、いまさら何を！ 貴様の慈悲など、受けるものか！
少女：この身に降りかかった火の粉を払ったまでのこと。 しかし、あなただけは正々堂々と私に勝負を挑んで来ました。
ミスビースト：……世迷言を言うな！ さあ！ 早く殺せ！
少女：く……
タケシ：……魔法少女さん
【その時、魔法少女めがけて背後から槍が飛んでくる】
少女：ハッ！
【寸でのところでかわし、槍は壁に突き刺さる。壁が派手に崩れる音】
ビーストキング：フハハハハ！ よくぞわが攻撃をかわした！ だがその甘さが貴様の命取りとなるのだ！ 今も昔もな！
【背後の壁が音を立てて崩れ落ち、ビーストキング登場】
ミスビースト：ビーストキング様！
少女：……ビーストキング！
第三話完
次回最終話「遥かなる流れの果てに……」に続く
